特にすることもなかったので、適当に帰ることにした。


「1カ月前、桜が言ったこと、覚えてる?」


「覚えてるも何も、忘れたいのに、忘れられない」


あの日、だ。

俺たちの関係が、どこか崩れてしまった日。


部活から帰ってきた桜と、話をしたときのことだ。


俺は今でも、鮮明に覚えている。


頭は今すぐにでも、忘れたがっているのに。


何だかそれは、子供の時のホラー映画に対する態度と似ていた。




最初は見たくて知りたくて、好奇心で怖いとは知りつつ、目を開ける。


だけど、怖い映像が映ると結局は怖くなって、そして、トイレにも行けなくなるし、夜も寝られなくなる。


何度かそれを繰り返すと、自然と俺は好奇心に駆られることもなくなった。


辛くなることを知ったからだ。



きっと、あの日、俺は桜を待つべきではなかった。


そして、浅川の話題を出すべきではなかった。



だけど、俺は本当に桜のことを知らなかった。


あいつの悲しみも、冷たさも、裏側に隠れていて、何も知らなかった。



俺が知ろうとしたことも、全て表面上ものだった。


だから、予想以上に俺は傷つき過ぎた。



だけど今よくよく考えると、桜が1番傷ついていたんだ。


そのことに、なぜ俺は気付いてやれなかったんだろう。