授業が終わると、桜はいつもの早歩きで部に向かって行った。

3年の引退試合が終わると、桜は正式な部員になった。

そして、当たり前のように、ピッチャーをしている。


悲しいだろうな、今までのピッチャー。


「川さん、今日どうするー?」


「今日は、部に行こうかな。
大会も近いし」


「そっかあ。
じゃあ、頑張ってね」



この会話を聞く限り、浅川も普通の部員のようなのだが、実際は違う。

浅川は、女バスの、言ってみればコーチ、いやもっと厳密にいえば、監督になった。


颯爽と廊下を駆ける彼女の後ろ姿を見て、なんだかまた切なくなった。


俺はこんなに幸せで良いのだろうか、と。


「川さん、やっぱり、どこか遠慮してるんだろうなあ」


「ああ。
本当は入りたかったんだろうけど、一ノ瀬のことがあるからな。
田上も、そして大好きなバスケも、どっちも奪うなんて出来なかったんだな」


田上を好きだった一ノ瀬。

そして、ギリギリだったベスメンのポジション。


悪いことは重なるって言うけど、まさしくそうだ。


「なんか、その“奪う”っていう言い方、嫌」


「え、悪い。
でも、恋もスタメン争いも、そういうもんだろ?」


「そうだけどさー・・・・・・。
全部が全部、上手い方向に行かないのは知ってるけど、上手く行ってほしいって思うのは、あたしの身勝手かなあ?」


真剣に考える玲菜を、学校だったけど抱きしめたくなった。

もちろん公の場で、そんなことをするつもりはないけど、一瞬手が動きそうになったのも、事実だ。



「みんな、そうだよ。
俺だって、全部上手くいってほしい」