「彼女が全然分からない。苦しいし、悲しい。だけど、好きなんだ。・・・・・・だって」

自分で言いながら、恥ずかしくなる。

「でも、別に変ではないと思うぜ」

「私も、そこはそんなに気にしなかった」


確かに、恥ずかしいが、桜が大笑いするほど馬鹿げた場面でもない。

人の心は他人には分からないわけで、だから、不安になるのは当たり前だ。


「全然分からないことに、この男は好きという感情を持つのか?
それに、なぜ好んで苦しいことや悲しいことに向かっていくのだ?」

「好んで、苦しいことや悲しいことに立ち向かってるわけじゃないよ。
できたら、楽な方に行きたいに決まってんじゃん」

「じゃあ、楽な方に行けばいいだろう」

桜に理屈では勝てない。

分かっているけど、恋愛を知らない桜に恋愛を語られるのは嫌い。


「好きだから、本当にその人のことが好きだから、どうしても好きになってほしいと思うの。
それが恋なの」

淡い初恋を思い出す。

恋愛感情のない桜に、こんなに胸を締め付けられる思いは分からない。

「そこまでして、なぜ恋をするのだ」

桜はいつも真顔だ。

怒ってもいなければ、笑ってもいない、そして疑問形のくせに不思議そうな顔もしない。

「桜には分かんないよ。恋愛感情のない桜には、一生分からない!」

一瞬桜は物凄く悲しい顔をして、視線をまた本に戻した。