ふと横に目をやると、廊下に田上がいた。

ゲンは二人を眺めていて、田上がいることには気付いてないようだ。

よう!元彼!と気さくに話しに行こうかとも思ったけど、あまりにも険悪な表情で川さんたちを見ていたので、声が出なかった。


そう言えば、この間ゲンが田上について、探ってほしいと言っていたような気もするし、川さんと仲がいいとも言ってたな、と思いだす。

もしかして、もしかして、田上は川さんのことを好きなのかもしれない。


その田上の視線には、見覚えがあった。

ああ、昔あたしがトシ兄の彼女を見ていた時だ。

ゲンはいち早く気付いてたから、あたしにあんなこと海で聞いたんだろうな。


「ねえ、ゲン」

「ん?」

「ゲンってさ、実はあたしより恋愛のプロじゃない?」

はあ?とゲンは呆れたように聞いた。

だって、とあたしが説明しようとすると、それを遮り言った。


「俺は片思い専門。
付き合うとか、そういうのは無知だよ、無知。
まあ、玲菜は片思いに無知だろうけど」


「失礼な!
あたしが何年片思いしてたと思ってるの?」

6年よ、6年、片手の指じゃ足りないのよ、と言ってやりたくなったが、やめた。

ゲンが困ったように微笑んだからだ。


「年数もあれだけどさ。
だけど、やっぱ1番近くで好きな奴が他の男と仲良くしてるのとか見て、そういう切ない思いいっぱいしてきたからさ、分かるんだよな。
表情とか、雰囲気とか、俺もこんなのだったなーって」


「ごめんね?」

何て言っていいか分からなくて、気がつけば口から出てた。

ゲンはブンブンと首を横に振り、あたしの頭を撫でた。


「お前が俺でいいって言ってくれてるだけで、俺は十分だから」


少し照れくさそうに笑うゲンはやっぱり、どこか切なさそうで、今まで何も知らずに頼っていた自分に腹が立った。



黙ってしまったあたしに痺れをきらして、ゲンは言った。


「こういうクサイ台詞に返事してくれないと、半端なく俺の立場がないんだけど」