黙れ、という冷たい声が理科室に響く。

最近落ち着いてたのになあ、とげんなりしてしまう。


「桜、お前、黙れはないだろ」

「すまない。
あなたの声は、俺の耳に合わないらしい」

お前ではなくあなたと先生を言ったことで、ほっと胸をなで下ろす。


事の発端は、今授業で習っている細胞、つまり人間や植物の子孫残しについてだった。

今日の授業こそ、桜は眠るべきだった。

しかし、あいにく今は4限目で、3限目の音楽の授業を熟睡していた桜は、とても上機嫌だった。


「皆も思春期だからな、そういうことについても興味が出てくると思う」

この変態教師がそういう発言をすると、生々しく聞こえ、悪寒がする。

桜はあからさまに嫌悪感を顔に出し、あたしは嫌な予感がした。


「だけど、皆に分かってほしい。
そういう行為を軽く受け止め、愛もなく行わないでほしい、と俺は強く思う」

その時、ガタンと椅子が落ちる音がした。

それは、桜のものだった。


「黙れ」

ここでその台詞が出てきたのだ。


でも、山田先生の言ったことは、どちらかと言えば正論に近い、珍しく。

じゃあ、なぜこんなにも桜を怒らせたのだろう。


「俺の声がそんなに嫌なら、別に受けなくても構わないぞ」

「失敬。
厳密には、声質よりも言葉一つ一つの方が正しい」

山田先生は、小さく貧乏ゆすりを始めた。


「俺の何がそんなにも、気に食わないんだ?」


「じゃあ、一つ言わせて頂きたい。
何故、愛がなければ、性行為を行ってはいけないのだ?」



性行為、という言葉が出て、理科室がざわめく。

思春期は、そういう言葉に無意味に反応してしまうのか。

桜は、1度咳払いをして、辺りを見回した。

その冷たい視線に、ざわめいていた教室も、一瞬で凍りつく。