でもさ、と玲菜は人差し指をピンと、天井を突き刺すように立てた。

「あの桜が、デパートのホワイトデーコーナーで頭を悩ませながら、それを選んだかと思うと、凄いことなんじゃないの?」

「頭を悩ませながら、っていうのは分かんないけどね」

「でも、興味のないことには全く関心のない桜が、川さんのために時間を割いたんだよ?」

そうなのかな、と思いつつ玲菜の言葉を待った。


「だから、時間がないって言ったのは本当なんだよ。
何かあったんじゃないの?
あいつ謎だしねー」

そう言われて、今まで何となく気にしていた桜との壁が、少し薄くなった気がした。


「そんな考え方も、あるんだね」

「格好よく言えば、恋愛のプロだから、たくさんの恋愛を知ってるってことなんだろうけどね。
でも、単純に言えば、無駄にプラス思考なだけ」


口を精一杯に上げて笑う玲菜は、本当に可愛くて、でもきっとたくさんの涙も流してきたのだろうな、なんて勝手に思ってしまった。


「あ、来たよ。桜とゲン」

玲菜は、教室のドアを指さした。


「何言われてたの?」と源に玲菜は詰め寄った。

「お前らも、なに話してたの?」


私と玲菜は顔を見合わせる。

もちろん、微笑みながら。


「女の子だけの秘密ですっ」

玲菜が言うと、桜は眉間に皺を寄せた。


「それは、男女差別か」

「桜には、ロマンがないのよね」

私が言うと、玲菜と源が口をそろえた。


「川さんも人のこと言えないでしょ」

「浅川には、それは言えないだろ」と。


この時間が、どれだけ私にとって愛しいか。

今以上に、数年後思うのだろう。

いつも人間は自分の幸せに気付かない、と言うが、私は少しでも今を幸せだと思いたい。


それがありふれた、何気ない当たり前の日常だったとしても。