「答えを知ってて聞くのは、どうかと思うけど」

「だって、百合ちゃん顔に出なくて分かりにくいし」


「でも、分かってるんだろう?」

田上はいきなり立ち上がり、ボールを数回ついた。

私の質問は軽くスルーされた。


「ねえ、百合ちゃん。
俺は自分が上手いなんて、1度も思ったことないよ」

いきなり何だ、と思いながらも耳を傾ける。


「どうせ俺のこと、バスケが上手いとか、格好いいとか自分で思ってる、ナルシスト男だと思ってるんでしょ?」

さすがに、うんとは言えない。

黙って次の言葉を待った。


田上はスリーポイントを、綺麗なシュートフォームで打った。

それと同時に、入ったな、と無意識に思う。

予想はあたり、シュッというネットが揺れる音を耳にした。


「俺は、女にも負けるような下手くそだし、好きな人1人も振り向かすことが出来ない、ダメ男だよ。
でも、それでいいんじゃないの?
だってさ、自分をダメだと思わないと、それ以上にはなれないでしょ」

また、田上は1本スリーを打った。

聞こえるのは、田上がつく独特なリズムのドリブル音。


何となく、私は分かっていたのかもしれない。

田上の誰よりも強い向上心と負けず嫌いを。

私に負けた次の日、田上は頭を下げて言った。


「俺は、どうしようもないくらい馬鹿だけど、強くなりたいよ。
少しでいい。少しでいいから、俺の相手になってよ。
次こそ、絶対負けないから。勝ってみせるから」

自分に言い聞かせるように、強く田上は言った。

私にはない、向上心を持っていた。


尊敬、よりも少し惹かれていたの方が、正しいだろう。

人は自分にないものを求めると言うが、まさにそれだ。

自分にはない、田上の素直さと負けず嫌いな所、現状に満足しない向上心に惹かれているのを、どこかで気付き出していた。

だけど、私はそれを受け止めようとはしない。

あくまで、私が好きなのは桜だ、と言い聞かせていた。