俺はもう、薫が笑っていてくれれば…それで充分なんだ。




何度もその言葉を頭の中に巡らす…。そうしなければ、またあいつが現れそうだったから。



彼女の後ろ姿が行った後の視界が霞む…――――。




もう、薫は見えない。



それどころか何も見えなかった。



原因は…―――――




「止まれよ…。…っ!」



腕で瞳を思う存分押しあてた。



「止まれよ、ちくしょーっ!」




ワイシャツは訳もなく濡れ、染み込むことができなくなった水滴が溢れだした。



思いとは裏腹に【それ】は流れる。




俺は泣いた。



その水滴は涙だったんだ。溢れた涙が自然と口元をなぞる。




「―――…しょっぺぇ…。」




舌が感知して、脳が感想を述べた。


あまりにも簡単な言葉で…


あまりにもつらい、その気持ちを…。




涙と一緒に呟いた。