「―――………え、英介…くん。」
はじめは呼び捨てで呼ぼうとしたけれど、途中まで言ってつい“くん”をつけてしまった。
あたしが名前を呼んだことに驚いた英介くんは、ちょっと違うんだけどな、と笑った。
「あ、じゃあそっちが英介くんなら、俺は“薫ちゃん”かな?」
あえてあたしを見ずに、空に向かって言った。
その仕草があたしに拒否権を与えないことを主張していた。
「…いいの?」
もっと英介くんは別の呼び名で呼びたかったんじゃないかな…?
そういう意味では、あたしが逆に制限を設けてしまったみたいで申し訳ない。
でも、それを汲み取ってくれたみたいに英介くんは微笑んで言った。
「いいんだ。くん、とかちゃん、とかなんだか新鮮味があって俺は気に入ったよ。」
「…そ、っか。」
「うん。心配してくれてありがと。」
「し、心配っ?」
「あれ?違った?」
―――…心配、か。
ということは、あたしはちょっと英介くんを好きになり始めたのかな…。

