「…だから、冗談言ってる場合じゃないって…」

私はまだ眉間にシワを寄せたままのアランを心配していた。

頭…?
頭が痛いの…?

私の手が、
そっとアランの黒い髪を撫でる。

もう、触れる…。
一体何だったの…?


「…ナオちゃん、触れた…?」

『もぉ消えてないかッ?』

同じくそう心配する二人に、私は首を縦に振った。


「…あはは、…ごめんねぇ。はぁ…俺が自分を『男前』とか言ったから、神様が…怒ったのかもね~…?」

「また、そんな冗談を…」

そんなはずがない。

何か理由があるはずなのに、
アランはそれを隠しているんだと思う。


アランは苦しそうに、
でも笑いながら…

決して、
弱音は漏らさなかった。


「…本当に、大丈夫なの…?」

私はアランを上から覗き込んで聞いた。

アランは唾を飲み込みながら、私の膝の上でコクコクと小さく頷く。
まだ、表情からは苦痛が伺える。

そんな中、
もう一度自分の力を込めた手を舟に向けた。


先程よりは速度はゆっくりなものの、再び舟は河を進み出していた。


アランの紫色の力。

使えばアラン自身が消耗してしまうのではないか…、また消えてしまうのではないか…