私は、彼の方向に膝を立て直して言った。
「私の名前は、奈央。よろしく、…えっと…」
開き直って手を差し伸べた私の顔を覗き見ると、ニンマリと彼は笑った。
あまりの大人びた表情に、
一瞬ドキリとした。
「ア…、リュウだよ!リュウ!よろしく、奈央。」
リュウはその小さい手で、ぎゅっと私の手を握った。
その温かさは、
夢なのにリアルに私へと伝わった。
「さぁ。じゃあ立って!行こっか、奈央。」
そろりと立ち上がる私の手を引き、崖側ギリギリに立つ。
リュウはかなり急いでいる様子で、小さな首で辺りをきょろきょろと見回している。
リュウが引っ張る手を引き返し、私は安全な場所へ逃げようと一歩下がった。
「どこへ行こうっていうの?落ちるって!」
自分がさっき私にそう言ったくせに、と必死の形相で私は止めた。
例え夢とはいえ、
この手の温もりも、
この恐怖も、
今の私には本物だ。
「あぁ、心配いらないよ~?貴女にとっては異世界でも、俺にとっては勝手知ってる故郷みたいなもの。俺について来れば大丈夫だから~!ね?」

