いつもは意地でも着ない着物着て、隣には獅兎がいて。

あたしたちは今、お父さんの部屋の前にいる。


「失礼いたします」

襖を開ければ、扉に背を向けたお父さんの姿。

威厳があるその後ろ姿を見た記憶は、少ない。

お父さんに遊んでもらった記憶なんて数回あるかどうか。

「何だ。ふたり揃って」

そういいながらお父さんはきっと気付いてる。

あたしが何言いに来たのか。

「お話があります」

そう言ったのは獅兎。

そんな獅兎の一歩前に出て、あたしは膝をついた。

「あたしは、獅兎のことが好きです。恋愛対象として。本気で」

やっと振り返ったお父さんの顔は何を考えてるか分かんない。

「鈴はお返しいたします」

獅兎はそれだけ言って、目の前に今まで首につけてた鈴を出した。

今獅兎の首にあるのは、あたしがあげたネックレスだけ。