Iの漂流戦士






“ねぇ、兄さん。いつか俺に話してくれる?”


“あぁ、いつか話すよ”



その約束を修は守らなかった

だけど、高木功はそれが悔しかった訳ではない




『…俺は兄さんの弟だろ?どうして苦しみの半分も背負わせてくれなかったの?』


瞳からは涙が溢れていた


やっと繋がった兄弟の絆だったのに、何も言わないまま遠くへ行ってしまった


そして殺人鬼としてまた出会えた今も


その心の内を明かそうとはしない



『兄さんは前に言ったよね?これからすごい事をするかもしれない。その時は俺を許すなって』


『…………』



『俺が許せなかったのは父さんを殺した事じゃない。まして兄さんが死んで殺人鬼になった事でもない』



高木功の言葉を聞いて、修はゆっくりと立ち上がった

やっと合った瞳は真っ直ぐだけど、固く閉じられた口は今も閉じられたまま







『……俺が許せなかったのは、兄さんが理不尽だと言ったこの世界に俺を独(ひと)りで置いて行った事だよ』


高木功は右手の拳を握り締めた




『…………功』


修は手すりを乗り越えて歩み寄ろうとしたが、高木功はそれを拒否するように後退りした



『………兄さんはまた俺を置いて行くんでしょ?……またこの世界に俺を独りにするんでしょ?』



高木功は一歩、一歩修との距離をあけた

屋上のドアノブに手をかけ、最後に兄である修に言い放った




『そんな事したら、今度こそ俺は兄さんを二度と許さないよ』



----バタンッ!!!!


勢いよく閉まったドアの音は、こだまするように屋上に響き渡った