修はそれを聞いて少し微笑んだ

頭のいい一馬の上手い交わし方に感心さえしていた


種をあちこちに撒き、色々な事を引っ掻き回す高木功とは違い、一馬はそんな事は絶対にしない


何か理由がない限り、自ら首を突っ込むはずがなかった

それは修が一番分かっている事、


『……俺は弱いんだよ。
あの手の人間には』


ポツリとぼやいた声を一馬は聞き逃さない


一馬は黙って、パソコンの画面を見つめた

月を見る修の背中は少し悲しそうだった


“あの手の人間”

そう言った瞬間、浮かんだのは
二人の人間

一人は正義、もう一人は………



『はっきり言ってあげないと、あの人一生後悔し続けますよ』

一馬がそう言う“あの人”とは倉木の事だった


修は考えるように少し沈黙を置いた



『言った所で何かが変わる訳じゃない。いつか俺が殺人鬼じゃなくなったら言うよ』


その後、修も一馬も何も言わなかった


“いつか俺が殺人鬼じゃなくなったら言うよ”

そのいつかは明日か明後日か、
いや一生訪れないかもしれない


修が殺人鬼じゃなくなる日

それは同時に一馬やナノハとの別れを指していた


修だけじゃない

一馬やナノハも殺人鬼じゃなくなれば大切な人との別れが待っている


人を殺し、人を救い続ける事が彼ら達の存在意味


でも、それを止めようとする正義の存在を無視出来ないのはなぜだろうか?


きっと心の中で思っているからだ


“救われたい、でもそんな事で救われてたまるか、と”


矛盾した二つの葛藤は今も続いている


もし自分が救われ、殺人鬼じゃなくなった日が来たら修はこう言うだろう


“先生は悪くない、何も悪くないんだと”

今も後悔し続ける元担任の倉木に向かって