アイと離れると、またアノ事が頭を過ぎる。


「ん〜……」


友達としては教えてやりたいところだが、引越し先の電話番号も知らず、家も知らない。


どうしたものか……。


「……お?」


アイが入って行った薬局の真向かいで、でっかいクマの着ぐるみが風船を渡している。


「アイにやろう」


俺は風船をもらうため、クマの前に行った。


「風船下さい」


「…………」


「風船下さい」


「…………」


おかしいな……聞こえてないのだろうか?いや、そんな事はない。ぬいぐるみと完全に目が合っている。


小さな子にしかあげないという事か?


「聞こえてます?風船くだ……」


……俺は感じた。感情を持たないはずのぬいぐるみから殺気を。