『別にただ何回かヤっただけだよ』
まるには引かれそうだから言いたくなかったけど、ここで器用に嘘をついた方がまるは怒ると思う。
『もしかして糸井さんと付き合ってる時から?』
『………』
別に軽蔑されてもいい。何度も断ったけど欲求に勝てなかったなんて、言い訳するつもりもないし。
『糸井さんはその事知らないんだよね?』
『当たり前だろ。俺はそこまで馬鹿じゃねーよ』
よく浮気がすぐバレる奴が居るけど、バレるくらいならはじめからしなければいい。上手くやれないなら手を出す資格もない。
『まぁ、悠里ちゃんに迫られたらどうしようもないよね。でも糸井さんにはずっと知られない方がいいよ』
『……』
雨がポツポツとビニール傘に当たる中、俺はある事をまるに聞いてみた。
『なぁ、ぶっちゃけ俺が千花と付き合う事反対だったろ?』
これはただの勘だけど。なんとなくそう思ってたんじゃないかなって思ってた。
『……反対ってゆーか、傷ついたら可哀想だなとは思ってたよ。だって健気じゃん、糸井さんって』
『健気?』
『糸井さん別れても宮澤の事、一切悪く言わなかったらしいよ。周りがどれだけ言っても、ただ笑って流すだけだって』
そういえば千花は言ってたっけ。遊ばれて可哀想だとか、すぐ忘れた方がいいとか言われたって。
別に悪口の1つぐらい言ってもいいのに。
むしろその方が楽だ。
あんな風に俺の前だけで泣かれると、
どうしたらいいのか分からない。
『どこが好きだったんだろうね、宮澤の事』
まるがポツリと呟く。
『……さぁ、知らね』
そんなの、俺が一番知りたい。