赤い血と男の声が、不思議と私を悲しみに陥れる。

何かが心の底から溢れてくるような、そんな感覚になる。


そんな時、唐突に違う感覚が襲った。


咳をしたい気分だったのが、ついに抑えられなくなった。

ゴホゴホ、と口元に両手を当てながら、背中を丸めて激しい咳に堪える。


こんなに激しくて喉が痛くなるような、そして吐きたくなるような咳は初めてだ。

それに本当に咳をしているようで、喉の辺りが気持ち悪い……



暫くして咳が治まり、両手を離す。

その手のひらを見た瞬間、血の気が引いた。



――両手のひらいっぱいに鮮血が広がっていたんだ。



目を丸くした途端、頭や背中に柔らかい感触がした。

どうやらようやく地面に着いたみたいだ。


見上げる天井らしき所は、まだ真っ赤に染まっている。



『君はきっと――』



大の字でぼーっとしていると、そんなはっきりした声が耳を掠めた。

白のワンピースがその声に反応し、静かに靡く。