かさの向こうに縁あり

そういえば、本当に平助が着替えさせてくれたのかな……


襖の前で一度立ち止まり、今更そんなことを考えながら外の気配を確認する。

人の気配なんてそんなに簡単に感じ取れない、いやそれどころか全然感じ取れない。


でも私の勘によれば、外には誰もいない。

寝静まっているみたいだ。



ーー脱走するなら、今しかない!



肩に掛けたバッグの持ち手をぎゅっと握り、口を一文字に結ぶ。


どうか誰にも見つかりませんように……


それだけ心中で祈り、慎重にゆっくりと障子を開けた。




『妃依ちゃん、何してるの?』




開けた瞬間に、そんな平助の意地悪そうな台詞はどこからも飛んでこなかった。

呼び止められたら逃げられないから、少し安心した。



それから安心しきった私は縁側を静かに降り、庭らしき所を忍び足で焦らず進んでいく。


心中で、誰にも会いませんようにと再び僅かに願いながら。