かさの向こうに縁あり

部屋に戻っても、私の心は決して元には戻らない。

どこへ行っても、この江戸時代から抜け出したとしても、この心が晴れることはない。


俯きながら布団に腰を下ろし、平助は畳の上に胡座をかいて、沈黙の時が流れていく。



そんな時、思い出したように平助は口を開いた。



「……あの人はこの隊の副長で、土方歳三っていうんだ。“鬼の副長”って、皆から呼ばれてる」



それだけ言うと、再び口を開くことはなく、ただ私の隣にいる。


そこでまたふいに気づく。


“島原”とはどこのことで、“この隊”とは、一体何の隊なんだろう、と。


歴史は苦手だから、考えても考えても組織らしい名前なんて思いつかない。

これは思い切って平助に問うしかない、そう思って私は筆を持ち、紙の上に筆を滑らせた。



『島原とはどこですか この隊とは何の』



そこまで書いて、平助の前にゆっくりと差し出す。

彼は一言一句全て読み終えると、ああ、と言っては無表情な顔を私に向け、口を開いた。



「島原っていうのは、江戸の吉原と同じで幕府公認の遊郭。で、俺達の隊は」



そこで一旦言葉を切り、少し口の端を上げた。