かさの向こうに縁あり

しかし、突然、私を床へ落とすように胸ぐらを離し、また同じ方向へ足を進めて行った。



「異国の匂いがする女なんざ、島原にでも売ってやれ」



男性が言った言葉の後半の意味は分からない。


でも苛立ちが収まることなく行き場を失って、強く握り締めた拳に注ぎ込まれていく。

そして震えていく。

同時に強く唇を噛み締めた。


私は生粋の日本人だというのに。

江戸時代の人からしてみれば、外国人として見られてしまうんだ。



「副長!」



平助がそう声をかけるも、それさえも無視して男性は姿を消した。



ああ、言葉を自由に操れたなら……



平助の心配も私の苛立ちも、初めからなかったはずなのに。

帰る場所と言葉さえあれば、誰にも迷惑をかけずに存在できたはずのに。


どうしてもそれらを阻もうとする、目には見えない強固な壁がある。


今はその強固な壁をぶち壊す手立てがない。



「妃依ちゃん……気にすることないよ。あの人は悪い人じゃないから」



平助は私の震える両肩を掴んで、部屋へと連れていってくれた。