かさの向こうに縁あり

“副長”と呼ばれる男性は相変わらず私をまだ睨み続けて、視線を逸らそうとしない。

負けじとこっちからも逸らしたくはなかった。



「ここに女はいらねえ。さっさと家に帰せ」



更に長く続くかと思った刹那、向こうから視線を逸らして縁側をさっさと進んで行こうとした。


それを見た私は、脳内の端の方のどこがで、何か苛立ちのようなものを覚えた。


自然と体が動いて、無造作に布団から出て男性を追いかけていく。



「妃依ちゃん!」



そう呼ばれたことも気にせず、縁側をどかどかと進み、目の前の男性の着物の袖を強く引っ張った。

瞬間、その男性は動きを止めた。


威圧がすごい。


背中からでも、殺気のようなものを感じられる。



「てめえな……」



その一言にはっとした。

だけれど、それは遅かった。


気づいた時には、すでに男性は振り向いて私の胸ぐらを掴んでいたのだから。



暫くの間、そのまま正面から睨み合いを続けた。

顔を寄せ、じっと見つめているような気がする程の。


思わず血の気が引いていく感覚に陥りそうになる。



ああ、声が出せれば良かったのに。