かさの向こうに縁あり

記憶は、一応ある。


だけれど、それはこの時代の人間が知るものではなくて、私だけが持つ記憶。

誰とも分かち合えない、記憶。


記憶喪失というのは、あながち間違ってはいない。


そう思って、今度は深く頷く。



「そっか……」



まるで自分の事のように、彼の表情が無くなっていった。


そこまで他人に心配されたことはないから、何だか申し訳なくなってくる。

その上、まだ会ってそんなに時間も経たない人に心配されているなんて。


ここにいること以上に不思議な気がしてきた。



「でも、本当に申し訳ないんだけどね、実は……」



平助がそう言いかけた時、その声も空気も遮るように、彼が背にしている障子が、勢いが良すぎる程に大きな音を立てて突然開いた。


そしてそれを開いた人物は男性で、凄まじい威力を放ちながら上から私を睨みつける。

顔は背中からの光で全く見えない。



「……何でここに女がいるんだ。昨日も言ったろう、平助」


「げ……副長」



素早く後ろを振り向いた平助は、怒りの言葉を放った男性に怖じ気づいているような気がした。