かさの向こうに縁あり

軽く目を瞑って深呼吸をしてみる。

ここにある全ての空気を吸うような気持ちで長く深く吸って、ゆっくりと吸った全ての空気を吐く。


目の前の世界が変わっていますように。


暫くしてから、そう祈りながらも目を開けてみる。



「ねえ、君さ」



やはり世界は変わらなかった。

それどころか、目を開けた瞬間に真剣な表情の藤堂平助が脇目に入った。


じっとその一言から声も出さずに、私の目を見つめている。


鳥の囀りが聞こえたと同時に、藤堂平助はゆっくりと口を開いた。



「もしかして、喋れないの?」



全てを見透かすような瞳が、私を知っているような言葉が、心を強く深く突く。

どうして分かるの、と言いたくなるほどに。


言いたいと思ったところで言えないのは分かっている。

だから素直に、ゆっくりと頷いた。



「やっぱり、そうか。さっきから話してるのに、一度も喋ってないなー、と思ってさ」



藤堂平助は口元だけに笑みを含ませて、そう言った。


何だか切ないような気分になり、思わず私は俯く。