かさの向こうに縁あり

こうして笑って別れるのも、案外悪くないのかもしれない。


昨日のように、平助の手が私の方に伸ばされる。

その手は今度は私の頭を捉え、ぽんと軽く置かれた。



「……じゃ、またね」



彼はそう言って、猫を膝に乗せてその背を撫でるように、ゆっくりと優しく頭を撫でられる。

こんなことは今まで親くらいにしかされたことがないから、俯くほど恥ずかしい。


暫くすればその手は離れていくかと思いきや、突然力が込められて、顔が平助の胸に押し付けられた。



「ごめん」



唐突に頭を引き寄せられた。

さすがに目を見開く。

声が出ないほどに刹那のことだった。


鼓動が耳に響く。

落ち着いているのは私だけかと思ったけれど、どうやら彼もそれは同じだったらしい。


たった1週間だけだから、これが恋なのか何なのか、経験の浅い私には判断できない。


ただ確かなのは、喪失感の類の感情は、今は一切ないということだった。



「君と会えて、よかった」



そう言われても、「私も」とは言わなかった。

涙も、出ない。


何故だろう、と考えて真っ先に思い浮かんだのは、「やっぱり平助に気がないからじゃないの?」ということだった。

自問自答してそうなら、きっとそうなんだろう。


暫くすると体は元の位置に戻され、名残惜しげに手が離される。



「あまりここにいるわけにはいかないから、俺は戻るよ。……元気でね」



そう言って平助は満面に笑みを浮かべると、すぐに走り去ってしまった。