かさの向こうに縁あり

「……まだちゃんとお別れの挨拶をしてなかったね」



気づいてしまった。


副長さんが何故、「俺の部屋に頻繁に出入りしているのを見て、よく思わねえ奴らがいる」と言ったのか。


さっき私が考えていたことと同じじゃないか。



勘違い……つまり、傍から見たら誤解を招く恐れがある、ということだ。


平助は離隊する側の人間、副長さんは本隊側の人間。

その間には思想、進むべき道の違い。


そのどちらとも交流することは、私が“スパイなんじゃないか”と疑いをかけられる可能性を秘めていた、ということなんだ。

どちらの事情にも通じていると見られても、おかしくはない。


今の今まで気づかなかった。

私にはまったくそのつもりがなかったのだから。


平助に言いつつ、頭の中では違うことを考える。

その後も彼は会話を続けた。



「まあ会えなくなるわけじゃないけどね。また会える時はあるだろうし」



これは暗に、お昼に仏光寺で会うことを指しているのかな、と思った。

副長さんに聞かれている可能性を考えて、あえて明確なことを言うのは避けているのかもしれない。


そうと信じて、私はあえて、あれが事実かどうか確認しようとはしないで、話を合わせることにした。



「そうだね。またどこかですれ違うかもしれないし」



平助とは、この広い町中を歩いていてもよく遭遇した。

これからだってきっと、会うことはいくらでもあるだろう。


そう思ったら、自然と笑みを浮かべることができていた。