かさの向こうに縁あり

「あ、そうそう。妃依ちゃん、朝飯食べな」



原田さんはいつでも笑顔だ。

なんだか少し救われそうな気がしたけれど、無意味に意地を張ってしまう。



「……今日はいらないです!」



たぶん、周りに心配をかけたくないという思いが裏目に出て、態度がおかしくなっているんだ。



「ちょっと機嫌悪すぎ……あ、それもそうか……」



原田さんの声は、後半部分が小さくなった。

どうやらこの人でも察せたらしい。


いつも笑っているところしか見なかった彼の表情が、突然真面目なものになった。

いつもと違うものだから、つい私は体を捻るのをやめ、彼を見つめてしまう。



「大丈夫じゃないと思うけど、でも飯くらい食ってこいよ。飯食えば少しくらい気が紛れるんじゃねえかな」



ああ、何だろう。
原田さんらしくない台詞だけれど、すごく胸に響く。

落ち着かない気持ちが、一気に熱を冷ましていく。


でも、ちょっとだけ膨れっ面になる。

おおっ、と原田さんはまた驚いていたけれど、その後ふっと鼻で笑った。



「――ごめんなさい。……ありがとうございます」



つられて私も思わず微笑む。


なんだろう、今日は原田さんが特別優しい。

彼なりに気づいて、気遣ってくれているのかもしれない。


でも失礼だけれど……



「なんかちょっと不気味な気もします、原田さん」



ボソッとそう言うと、「え?何?」と原田さんは耳を傾けてきたけれど、笑って「なんでもありません」とだけ答えた。