かさの向こうに縁あり

自分でも気づかないうちに顔に集中させていた力を緩め、声のした左へさっと視線を移す。

まるで何事もなかったかのように。



「あ、原田さん。おはようございます」


「よお。……ねえ、さっきの顔何?何かあった?」



その一言に、少しの間だけ動きを止める。

わざわざ原田さんに言うようなことではないし、言ったところで「そんな夢なんか気にすんなよ!」と言われるのがオチだろう。

何となくこれまでのイメージから、容易に想像できる。


私はちょっと顔を逸らし、腰を中心に上半身を捻る運動を突然始める。

原田さんは驚いたらしく、うおっ、と声を上げた。



「……何でもないですよ。なんかちょっと、イラッとしてただけです」


「それは何かあったって言うんじゃねえか……」


「とにかく!何もないですから、ご心配なく!」


「な、なんか機嫌悪いな、今日……」



体を捻る力を、グイグイと強くする。


私の機嫌を朝から悪くしている要因は、夢のことだけじゃない。

もちろん平助のこともあるし、むしろこっちの方が大きい要因だ。


自分ではあまり意識していないけれど、本当は気になって仕方がないのに、それをなるべく悟られないようにしようとしているんだ。

周りに迷惑をかけそうだけれど、きっと今日は一日中こういう感じだろうと思う。