かさの向こうに縁あり

こうして気になってしまうのは、“好きだけど今は嫌い”と桜に対して自分の気持ちを込めて言ったけれど、そんなのは本心じゃないからなんじゃないかな……とか思ったり。


今日は平助や他一部の隊士達が、この西本願寺の屯所を離れる日だ。

行き先は私には分からない。


気づけば、外は何やらいつもよりざわついている気がした。



軽く伸びをして起き上がる。

肌寒いし布団から出たくないな、と思いつつ、体は意思に反してさっさと布団を畳んだ。

あたかも日常と化してしまった行為だからだろうか。


慣れって怖いな、さっきまで真逆のことを考えていたのに、と畳み終えた布団を見下ろしては溜息をつく。


「なんで朝からこんなに色々と考えさせるんだよー!」と勢いに任せて障子をパーンと音を立てて開ける。

まさに「ふざけんな!」というオーラを出すようにして。


近くに人がいたら、確実に恐れのような視線を向けられただろうと思う。

けれど、かろうじて人の気配はなかった……と思ったら。



「おっ、妃依ちゃん!おはよう!……というか、朝からそんなに怖い顔してどうしたよ?」



すっかりお馴染みになってしまった朝の挨拶がてら、眉間に皺が寄っていることを暗に指摘される。


さすがにびっくりして、顔も体も庭の方に向いてはいるけれど、原田さんの声が聞こえたと同時に口をパッと開けてしまった。