切なげに佇むその背後に回り、そっと背中から抱き締めてあげたくなる。


でも私は実体が存在していなかった。

手足どころか、胴体も頭もない。

幽体離脱でもしたかのような、魂だけが浮いているような、妙な感覚がある。



あくまでも今日の私は、傍観者だった。


何をすることも叶わない。

できることとすれば、ただこの男性の傍にいることだけだ。



男性はまだ言葉を続けようとする。

けれど、夕闇の景色を彷彿とさせるような悲しみに暮れた表情ではなく、先程とは打って変わって晴れやかなものになっていた。



『君は、僕といて幸せだったと言ったね。それで僕は少し救われたよ。君を、あの鳥籠のような場所から身請けしたこと……それは間違いじゃなかったと思えたんだ』



雲がほんの少しふわふわと上空高くに漂う空のような、少しの悲哀を含んだその様相は、女性に対して心配しないで、と言っているようだった。


昨日までの夢とは繋がりが薄いな、と思っていたけれど、少しは聞き覚えのある言葉も出てきた。

けれど、“鳥籠”とか“身請け”は何を指しているのか、見当もつかない。


この“遺影の女性”は、やはり私ではないという見方が突如として強まった。



そうだとしたら、これは誰の話なんだろうか。



私と同じ名前を持つ、異なるストーリーを経た別人という可能性が出てきた。

謎が謎を呼んでいる。
夢だというのにとてもややこしくなっている。


もはやこの男性の悲しみや不安などそっちのけに、考えを巡らしていた。