『――君は、随分遠くに行ってしまったね』



私はふわふわと、空気中にたくさん存在する埃ような状態で浮いている。

そんななかで、寂しげな男性の一言が耳に入る。

私の視線は、彼の横顔がよく見える位置にあった。


仏壇の正面に座り、彼はある一点を見つめてそっと微笑んでいる。

線香立ての後ろには、亡くなったであろう女性の、無邪気な笑顔で写る遺影が飾られていた。

この男性の恋人、だろうか。


こうも私が今さらまた疑問を抱くのには、ある理由があった。


これまでの夢の中では、定かではないかもしれないが、男性は姿や声が平助そのものだった。

でも、今日は違う。

男性の声も横顔も平助のものではないし、遺影も“私”ではない。


どうして今日はこんな風に見えているんだろう……?


改めて遺影を確認するけれど、やはり顔はまったくの別人だ。

でも、どこかで見覚えのある顔ではあるということに気づく。

どういうことなんだろうか。



『もう、会えないのかな』



彼はまた、誰に言うでもなく澄んだ空間に呟いた。


また会えると言って欲しい。

そんなことは、彼が言葉にしなくても察することができる。

今にも泣きそうな声色なのに、彼は決して泣こうとはしなかった。

涙を涸らすほど泣いた後のような、疲れた目をしているからなのだろうか。