かさの向こうに縁あり

枝垂れ桜を見て、普通なら綺麗だと賞賛し感動するのだろう。

でも私はそんな気持ちなど微塵ももてなかった。

表情も暗いままで、パッと晴れることなんてない。


今はただ、この無言の状態が怖い。

次に平助が口を開いた時には、もうこの世の終わりのような気さえしていた。



「あのね、もっと大事なことを伝えないといけないんだ。本当はこっちこそ先に話すべきだった」


「……何?」



嫌な緊張感が漂う。

桜が風に吹かれて舞っているけれど、私の心も風に吹き飛ばされてしまいそうなほど心許なかった。


自分からきっかけを作り、問い質しておきながら、耳を塞いで縮こまりたい思いでいっぱいになる。


もう嫌だ、やっぱり聞かなきゃよかったーーそう思った瞬間、平助はゆっくりとこちらを振り返り、口を開いた。



「俺は明日、屯所を離れるんだ」



刹那、時が止まった気がした。

散っているはずの垂れ桜の花弁も、目には見えない風も、何もかもが止まってしまった気がした。


そう告げた彼の表情はない。

本当に誠実な人なんだな、と思わず思ってしまう程に、凛々しかった。


一方で私は目を見開き、覚悟をしてはいたものの想像を遥かに越える言葉が紡がれたことに対して、考えることを放棄した。

いや、思考が強制的にシャットダウンされた。

いくらなんでも唐突すぎて、受け止めきれない。