かさの向こうに縁あり

「このお寺さんの……仏光寺の境内で、話をしながら花見でもしよう」



あくまでも話をするのが目的で、花見はついで、というような口振りだ。

普通は花見をしながら話をしたりするものだろう。


“晴れていればさらに綺麗に見えるもの”は、何かの花のようだった。

今は春だから、もしかするとそれは桜なのかもしれない。


相変わらず空はどんよりとしていて、私達を包む雰囲気そのままのようだ。



この立派な建物のお寺、仏光寺と言うらしい。

お寺の敷地の角を左に曲がり、少し進むと入口の門が見えてきた。

そこへ平助は無言で向かっていく。


何故か中に入ることに緊張して、不安が津波のように一気に押し寄せる。

そして引いてはまた押し寄せる、を繰り返す。


詳しく話してもらいたいと思っている一方で、耳を塞ぎたい思いもある。


そんなに怖がることはない、大丈夫。


落ち着かせようと深呼吸をし、上を見上げる。

門の内側に木があるのだろう、そこから薄いピンクの花が覗いていた。

咲き初めの枝垂れ桜だ。


はっとして足を止めかけ、その刹那、息を飲む。


“桜は武士を例えるものとしてよく使われるんだ”、と以前父が言っていたのを思い出したからだ。


なんでも、桜の散り際の潔さが、そう例えられる由縁らしい。

この時代にすでにあった考えなのかどうかは、私には分からないけれど。


あの時は話を流していたというのに、どうしてこんな時にそんなことを思い出すんだろう。