かさの向こうに縁あり

「聞きもしなかった私も私だけれど、全然聞いてないから!」と心中で軽めに反論する。


本当にどこへ行くのだろうか。

でも平助の言葉と嬉しそうな表情を見る限り、何か“綺麗なもの”を見に行くようだ。

しかも晴れていればなお綺麗に見えるという……

それだけは察することができた。


彼の横顔から視線を前に移す。

その直後、「あ、ここ右ね」と言われて家々が迫る細い道に入る。

ここはあまり人が通っていない。

右折すると同時に、「こういう道のこと、京の人達は“ろおじ”って言うらしいよ」と豆知識を披露するように言った。



平助は今、何を考えているんだろう。

何を思っているんだろう。


その後何も話さなくなった彼の気配を右に感じながら、ついそんなことを考えていた。


出身地を聞いたって、年齢を聞いたって、やっぱり重要な部分は見えてこなくて。

副長さんから聞いた話を、どうすれば話してくれるのだろうか。

私から切り出すには勇気がいるし……と思ったけれど、そういえば口止めされていたんだった。



「もうすっかり春だね」



会話が途絶えていたことが平助は気になったのだろうか、ふと彼はそんなことを口にした。

その言葉に、再び横顔を見る。


寒い冬を越え、暖かな春がやって来たというのに、彼の表情は驚くほど寂しそうなものだった。