かさの向こうに縁あり

「それにしても、どうしてこんな所に?」



話題は変えられたけれど、それはまるで「見つかったら副長に怒られるよ?」と言いたげな口調だ。

その点は大丈夫、ちゃんと許可を得て出てきている、と伝えると、「そう」と言って安心したように微笑んだ。

何とか平助に咎められずに終わりそうだ。



「で、どこに向かっているの?」



次にそう問われると、私は押し黙った。


目的地なんてない。

一度しか来たことのない京都で、しかも時代の違うこの場所で、地理など分かるはずもないのだから。


平助のその問いには、何とも答えようがなかった。



「いや……それが、決まってなくて」


「勢いで出てきちゃったの?」


「う……まあそんな感じかな」



さらに続けられた質問にも図星で答えられなくなる。

ここは知らない土地だというのに勢い任せに出てくるなんて、随分肝が据わってる奴だな、私は……



「じゃあ俺が行きたかった所に行ってもいい?」



爽やかな笑みを浮かべて、そう問われる。

行きたい所ってどこだろう、ちょうどこの先なのかな、と思いながら、目的地のない私は「いいよ」と言う以外になく、同時にこくりと頷く。