かさの向こうに縁あり

でも、はっきりとは答えられない。


だから私は微笑んでごまかした。

罪悪感を抱えながら。



「……じゃあ、気をつけてね」



苑さんは私の態度には何も言わずに、それだけを言った。

はっきり言って、私の態度は失礼なんじゃないか、と自分でも思うのに。


もしかしたら、これが苑さんと会う最後の機会かもしれない。


もしそうだとしても。

私は何も言わずに……言えずにこの家を去る。



「またどこかで会いましょうね?」



そう言う彼女はにっこりと笑っている。


でもきっと心中では、悲しくて寂しくてならないはずだ。



『色々とご迷惑をおかけしてすみませんでした
お世話になりました』



お詫びとお礼の言葉を書いて見せる。


お互いに数秒微笑み合って、私は深々とお辞儀をした。

私が頭を上げると、苑さんにお辞儀を返される。



きっと、もう会うことはない――



事情を知らない彼女もそう思っているんだろう。


そして名残を惜しみつつ、私は引き戸をゆっくりと開けた。