かさの向こうに縁あり

紙に滲んだ墨のように、心の中にほくろのようなわだかまりができた。


きっと今の私なら、誰にも止められないだろう。

いや、今までは止める人さえいなかったけれど。



「あら、そうなの?残念だわ」



本当に残念そうに肩を落として、苑さんはそう言った。


私が帰るとなったら、彼女の動きは素早かった。

すぐに玄関に誘う。


別れを惜しむ様子もない。

旦那さんを失ってしまった苑さんにとっては、それは上辺だけなのかもしれないけれど。



下駄を履き終え、後ろを振り返る。


すると、苑さんは寂しそうな表情をしていた。



「もうここには……来ないの?」



そう言われて、はっと気づいた。


私はこの家で生活していく気でいたんだ、一昨日は。

新選組の屯所という、怖い場所から抜け出せてすっきりしていたんだ。


それなのに、今私は荷物を持ってこの家を出ていこうとしている。


きっとそんな私を見て、彼女は私がもう来ないと思ったんだろう。