かさの向こうに縁あり

茨城県の昔の国名って何だったかな、と記憶の底から無理矢理引っ張り出す。

さすがに歴史嫌いな私でも、それぐらいは知っている。



『常陸国です』



ささっと書いて見せる。

これは隠す必要はない。


すると苑さんは驚いた表情をした。

おそらく、私が同じ東の人間だから……かな。



「へー、常州生まれなんだ!ちなみにお家はお武家様?」



ぱっぱと、次から次へと質問される。

結局、質問は一つじゃない。



紙に筆を滑らせよう、そう思った瞬間。

私は思わずその手を止めた。


筆を置いた部分に墨が滲む。



「……どうしたの?」



墨が何枚もの紙に染み込むほど付けていた筆を、さっと紙から離す。


いや、だって。



自分の家が武士だか農民だか何だか、分かるわけないでしょ……!



ましてや、今の名字と血が繋がってるわけじゃないし。

それに、現代では身分なんて関係ないし。



頭の中が真っ白になる。

一体、何て答えればいいんだ……