かさの向こうに縁あり

「昨日、どこに泊まったの?帰る所、ないんでしょう?」



優しく探るように、そう問われる。

やっぱりその質問か、と私は心中で焦った。



「いや、いいのよ?答えなくても。ただ気になっただけだから……」



苑さんはそう言ってくれたけれど。

私が焦る理由は、ただ一つしかない。



苑さんの旦那さんが新選組に殺されたことを、私は知っているから……



「新選組の屯所にいました」とでも言ってみれば、きっとこの人は表情を変えるんだろう。


旦那を殺した人達と関わりがあると知れば、即刻私を避けるはずだし。


そんなことは面倒な事態を招くし。

何よりもそうなることが嫌だった。


だから私は、躊躇いながらも、紙の上に筆を滑らせた。



『答えられないのです
すみません
それで突然で申し訳ないですが
苑さんのお家に荷物を取りに行きたいんですが』



句読点もない文を、句読点を付けたい所で段落を変えて書く。