僕は“イヌ”だ。
(ヒトの言葉では、僕たちを“イヌ”というらしい)


 僕は時々、窓ガラスに写る僕自身を見ては、その姿を観察する。

 母さんに似ているところを探すけれど、残念ながら全く見つからない。


 母さんはブロンズ色の美しい巻き毛で、瞳は琥珀(こはく)のように深く透き通っていた。

 その瞳をずっと見つめていると、

「本当に “見る” という機能のためのものなのだろうか?」

と思うほどに美しい。


 一方の僕はというと、黒に近いこげ茶色 をした、硬くてそれ程長くはない毛に、真っ黒な瞳。

 耳の形も母さんとは違い、空に向かって立っている。

 父さんはこんな風貌だったんだろうか?と、想像してみたりする。



 僕は父さんを知らない。