そこにあるものはなんだろう?



投げられた質問に答える術を僕は持っていない。


言葉では表しようもない、僕らの関係の流れ着く先を僕は知らない。


不安定な僕らの不確定な未来と宙ぶらりんの関係。




恋人同士とは違う。


お互いに、恋愛感情はないと分かっている。


けれど、特別という言葉で片付けてしまうには、あまりにも特別すぎる僕らの関係は、温く、甘く、柔らかい惰性の繭に包まれた、痛いぐらいに居心地のいい空気だった。





「ただいま」


ドアを開けると、黒いパンプスが礼儀正しく置かれている。


彼女だ。



「おかえり」


ワイシャツの袖をめくってスーツ姿のまま、料理をしている彼女に僕は言った。


「エプロンすれば?」


彼女は、気づかなかった、という風に頷きながら、今度からそうする、と呟いた。