美しい、と思うより先に。

母の姿を思う。


母の愛した花。

母のような花。




父の名を語らずに、母は逝った。

静かに、だが確かに父を愛していた母は、俺の母親である前に、常に一人の女だった。



物静かで、感情を露わにすることはなかったけれど、芯の強い人だった。



椿の花は、盛りを過ぎると、花ごと落ちる。


女のまま、その生涯を閉じた母は、自らの愛した椿であろうとしたのかもしれない。






唯一の血縁だった母の兄が、我が家を訪ねてきたのは、葬儀から3週間後のことだった。


「落ち着いたか?」


最初から、波立つようなこともなく、実際母の亡くなる前と、なんら変わりのない日々を過ごしていた俺は、伯父の問いに素直に頷いた。


「そうか。」


そう言ったきり、黙ってしまった伯父に、俺は言った。




「…何か、用事があったんじゃないですか?」


伯父は躊躇う様子を見せ、やがて言った。




「実は、康子から預かっているものがあるんだ。」