今日も彼女は同じ時間に、同じ車両に乗っていた。


会えただけで、オレの気分はバラ色に変わる。


早起きも、彼女の為なら、苦痛にはならない。




癖のない、サラサラとした黒髪は、キレイに肩のラインで切り揃えられている。


臙脂色の少し変わってセーラー服は、彼女によく似合っている。


手すりを握る左手の手首に、茶色い革のベルトの腕時計。


右手には本を持っている。


本に目を落とす彼女の顔を窺う。




夢中になって文字を追う横顔に、オレはメロメロだった。


もちろんそれだけじゃなく。


ときどき小首を傾げるような仕草も。


ページをめくる指先も。


二度、三度、荷物を持ち換えるのも。


駅に着く度に駅名を確認するのも。


その1つ1つの仕草の全てに、オレは恋をしていた。




そう、『恋』をしていたのだ。






彼女が降りる駅が来て、オレのバラ色の時間は終わる。



我に返るこの時間が、何よりも切なさを運んでくる。




窓から、小さくなっていくランドセルの背中を見つめて、オレは深い深いため息をついた。