「忘れるさ」 自分に言い聞かせ、カップの縁を撫でる。 忘れられるか? 自分の胸に問い掛けてふと気づく。 これは彼女の癖だった。 彼女は嘘をつくときに、やたらと指先で物を弄ぶ。 唐突に、別れを告げた彼女を思い出した。 彼女のついた『嘘』を。 何を隠そうとしたんだ? 答えはどこにもない。 ずしりと、形の見えない真実が俺を責める。 雨は止んでいた。 消えた答えを探しに、俺は進もう。 指輪を手に、雑踏の中へ………