雨の中、真っ赤な傘が一つ開く。

ビル街の雑踏の中に、傘は紛れて消えた。

残されたのは静寂と鈍く光を放つ指輪。




「別れてほしい」


一服しよう?と言うようにあっさりと、彼女は言った。


「本気か?」


俺にはそう聞くことしかできなかった。


「冗談でこんなこと言わないわ」


彼女の淡々とした口調はまるでいつもと変わらず、俺には理解ができない。


「どうして?」


「好きな人がいるの」


指先で軽くカップの縁を撫でながら、彼女は俺を見た。



「ごめんなさい」


俺は首を振る。




「俺のことはもう、愛してないのか?」


我ながら馬鹿な事を、と思いつつも聞かずにいれなかった。




「ごめんなさい」




否定しないのか…


俺は深い溜め息をついた。