今、賢の前にはケイがいる。彼は相変わらず細く、白い、雪のような肌…人形の様に無表情であった。
いや、賢が思い違いでなければ、今のケイは、白肌の人形を通り越して、透き通った、今にも溶けて消えてしまいそうな、氷細工の様にはかなく見えた。そして、彼の包帯でぐるぐる巻きにされた左腕…


-今回の旅は、果たして彼にとっての苦しみの終着駅になりえたのだろうか…-


賢は、「お帰り」と、ケイに声をかけたきり、ケイに何を話しかけたらよいのか分からずにいた。そしてそのまま一時間以上、二人は座敷の丁度一畳分隔てた間合いで、正座をした状態で見つめ合っていた。
…突然、ケイが口を開いた。
「何も言わず、置き手紙だけして出ていってごめんなさい…」
賢は、ようやくケイに話しかけるきっかけを手に入れた。
「…いや、良いんだよ、ケイ。お前さえこうやって元気でいてくれさえすれば…私は、もうこれ以上、大切なものを失いたくはない…お前をここまで苦しめたのは、この私の責任だ。」