…シュルシュルと、勢いよくほどけてゆく、左腕の包帯。露わになる、ロマンス・カットの傷跡達。ケイはそっと、その中でもたった一つ、他の物とは違う傷跡を選び、右手に持っているカッターの刃と合わせてみた。


今、ケイは全てを思い出す。


-…僕も、ほのかの事を…-




ケイの実家である、夕霧家。この家は代々続く旧家で、地元でも有数の大富豪の家であった。
夕霧家のある、ここS県Y市の山林や高原一帯は、全て夕霧家の所有であると言われている。
特に、ケイの義父でこの家の当主、夕霧賢の代で、さらにその富を増やしたという事だ。
持ち前の度胸と先の時代を読む目利きによって、林業だけではなく、Y市のレジャー施設の開発、全国規模での飲食店経営など幅広く手を広げ、成功をおさめていった。
財界人や政治家とのコネクションも広く、実力、名実ともその世界において、夕霧の名は大いに知れ渡っていた。