ふわり、ふわり。春の木漏れ日をうけながら、夢見心地に舞い上がる無垢色の、玉。その無垢色が、いつからだろう、淡く切ない、恋色に変わっていったのは。
とある昼下がりの公園の、大きな木の真下にあるベンチで、優子は一人、物思いにふけっていた。

―初恋は実らない―

一体、何処の誰がそんないい加減なことを言い出したのか!困ったもんだ。これじゃあ、ひろ君に自分の想いを伝える勇気が…などと心の中で悪態をつきながら、ただ一心に優子は、シャボン玉を作り続ける。
優子が初めて、ひろ君こと、雪野ひろと出会ったのは、今からさかのぼる事、六年前。この公園から一キロ先にある土手で、当時十歳の優子を慰めてくれた、通りがかりの少年が雪野ひろだった。
何が悲しくて泣いていたのかは、もう忘れてしまったが、そんな優子に、ひろは少し待ってて、と、何かを買いに出かけた。
優子が渡された物は、シャボン玉セットだった。