俺は次の瞬間、目を閉じる。


 おずおずと目を明けてみると、辺りは何もないし、自分以外誰もいない静かなトイレだった。


 何かがあるに違いないと俺が感じ始めたのは当然と言えば当然だろう。


 霊がウイルスのようにして感染し、辺りに被害をばら撒いているような……。


 滴った血は確かに残っていた。


 俺はそれをトイレットペーパーで拭き取り、ゴミ箱に捨てて、何気ない風をし、トイレを出る。


 まるで何もなかったかのように、自分の味わった心霊体験の証拠を全て消した。


 フロアに戻ると、高村が、


「飯食いに行こう」


 と言う。


 俺が黙って頷いた。


 その日、俺と高村、磯野の企画部社員三人で、近くの定食屋に食事を取りに行く。