そういえば、あのマンションで昔、人が首を吊ったことがあったらしい。


 極度のノイローゼで、トイレの天井にタオルを引っ掛け、首吊り自殺を図った人間が過去にいたようだ。


 俺は最初軽く考えていた。


 こんなに科学技術が発達した時代に、昔の怨霊などを合理的に証明できるのかと。


 確かに小津原が言った通り、文献などには俺の住んでいるマンションの土地が昔河原で、今村武蔵介浩文や綾田伊予丞次郎が大勢の人間たちに見世物にされて、斬首(ざんしゅ)されたことはあったのだろうが。


「小津原さん」


 ――はい。


「これからどうすればその怨霊は消えるのですか?」


 ――地縛霊はその土地に棲み付いた霊ですから、簡単には消えませんがね。


「では、私はどうすればいいのです?」


 ――供養してあげてください。せめて霊が出てくる場所にお水や塩などをお供えして、ちゃんと霊が成仏するまで見届けることです。