俺は里夏が不意に言った「この街に実は都市伝説があるらしいの」という言葉を思い出す。


 潜在意識として眠っていた恐怖心が一気に煽り立てられる。


 落武者の霊らしい。


 夜ごと、街中に現れるというのだ。


 俺は霊媒師の小津原の除霊も効果がなかったのかなと思ったりもする。


 実際、自宅マンションでは血みどろの水が出たり、死霊が出てきたりするのだから……。


 それに俺自身、住んでいるマンションが曰く付きだったりという疑いもあるわけだし……。


 俺は上の人間から指示された通り、企画書を打ちながら、順調に業務をこなしていた。


 ワープロのキーを叩くのが俺の仕事だ。


 秘書課にいる里夏は、社の広報として仕事をこなしている。


 俺はアイスで淹れていたコーヒーを飲みながら、キーを叩き続けた。


 俺はちょうど三十歳なので、まだまだ未熟だが、徐々に脂が乗り始める頃だ。